【民法改正】設備設置権とは|私道の承諾なしで工事できる3つの要件

建築・開発

私道の所有者からインフラ工事の承諾を拒否され、高額な承諾料を要求されて計画が頓挫しかけている状況は、本当に苦しいものです。

しかし、令和5年施行の民法改正により、一定の要件を満たせば所有者の承諾なしでも設備を設置できる法的権利が確立されました。

この記事では、新設された設備設置権の仕組みや、相手の同意が得られなくても工事を進めるための具体的な通知手順についてわかりやすく解説します。

感情的な対立を避けつつ、法律に基づいた正しい手続きと適正な費用負担で工事を実現するためのノウハウをレポートしますので、ぜひ最後までお読みください。

立石秀彦(宅地建物取引士)
監修:立石 秀彦 宅地建物取引士

不動産会社を10年経営し事業譲渡。現在は不動産関連のマーケティング事業も展開。トーマ不動産マガジン、クラシエステート株式会社公式サイトなどを運営しています。

プロフィールを見る ※法令の解釈・結論は個別事情で異なります。最終判断は自治体や専門家へご確認ください。

設備設置権の概要と私道所有者の承諾が不要な理由

これまでは近隣住民のハンコがなければ工事すらままなりませんでしたが、令和5年(2023年)4月1日の民法改正により、一定の要件を満たせば所有者の承諾なしでも設備を設置できる権利が確立されました。

理不尽な要求に屈することなく、法律に基づいた適正な手続きでライフラインを確保することが可能です。

令和5年の民法改正で明文化されたライフライン設置権

ライフライン設備設置権とは、電気や水道などの継続的な給付を受けるために、他人の土地に設備を設置したり、他人の設備を使用したりできる権利のことを指します。

この権利は令和5年4月1日に施行された改正民法によって新設され、これまで不明確だった「他人の土地を使用する権利」が条文として明確に定められました。

法改正により、ライフラインの確保は単なるお願いではなく、生活を守るための正当な権利として認められています。

私道所有者の承諾なしで工事が可能になる法的根拠

もっとも重要な点は、法律の要件さえ満たせば私道所有者の承諾そのものが不要となり、相手の同意がなくても権利が当然に発生するという法的効果です。

民法第213条の2では、他の土地のみを経由して設備の供給を受けられない場合、他人の土地に設備を設置する権利があると明記されており、これは相手が拒否しても消滅しません。

承諾書のハンコをもらうために高額な承諾料を支払う必要はなく、堂々と工事の権利を主張できます。

電気やガスだけでなくインターネット回線も対象

この権利の対象は、生活に欠かせない電気・ガス・水道・下水道だけでなく、現代生活においてライフラインと同等の重要性を持つインターネット回線や電話線も含まれています。

具体的には電気通信事業法に基づく電気通信設備も対象となるため、光ファイバーケーブルの引き込み工事などで私道を通す必要がある場合にも、この権利を行使できます。

リモートワークが普及した現在において、通信インフラの確保も法的に強く保護されています。

設備設置権と設備使用権の違い

設備設置権が他人の土地に新しく導管などを埋設する権利であるのに対し、設備使用権は他人が所有する既存の設備に接続して利用させてもらう権利です。

民法では、新たに土地を掘り返して設置するよりも、すでにある設備を利用するほうが相手への損害が少ない場合、設備使用権を行使すべきであると解釈されます。

自分の状況においてどちらの権利を行使するのが適切か、相手への影響を考慮して選択する必要があります。

設備設置権を行使するために満たすべき3つの要件

令和5年(2023年)の民法改正によって明確化された「設備設置権」は、ライフラインの確保に悩む土地所有者にとって強力な権利です。しかし、この権利は無条件に行使できるわけではありません。

民法第213条の2では、他人の権利とのバランスを保つため、権利を行使する側が守るべきルールを定めています。ここでは、設備設置権を行使する際に必ず満たさなければならない3つの要件について解説します。

他の土地を経由しないと供給を受けられない不可欠性

まず1つ目の要件は、他人の土地を使わなければライフラインの供給を受けられないという「不可欠性」です。

法律では、「他の土地に設備を設置しなければ電気、ガス又は水道水の供給を受けることができないとき」に限り、この権利が認められるとしています。 具体的には、以下のようなケースが該当します。

  • 自分の土地が公道に面していないため、他人の私道を通さなければ水道管やガス管を引き込めない場合
  • 公道には面しているが、本管が遠く離れており、隣地を経由しなければ接続が物理的に不可能な場合

逆に言えば、「隣の土地を通したほうが工事費が安く済むから」や「距離が近いから」といった、単に便利だからという理由だけでは、この権利を行使することはできません。あくまで、生活に不可欠なライフラインを確保するための「最終手段」としての性質を持っています。

私道所有者に最も損害が少ない場所と方法の選択

2つ目の要件は、相手方(私道の所有者など)への配慮です。他人の土地を使う権利があるといっても、好きな場所を自由に掘り返して良いわけではありません。

民法では、設備を設置または使用する場所や方法について、「他の土地及び他人の設備のために損害が最も少ないものを選ばなければならない」と定められています。

  • 場所の選定: 例えば、他人の庭や建物の敷地を横切るのではなく、既に通路として使われている「私道部分」や、民法上の囲繞地通行権が認められる部分を選ぶことが求められます。
  • 方法の選択: 新しく管を埋設するよりも、隣地ですでに使われている私設管に接続させてもらう(設備使用権を行使する)方が相手の土地へのダメージが少ない場合は、その方法を選択する必要があります。

このように、自分の土地にライフラインを引き込む権利を行使する際は、相手の土地利用への影響を最小限に抑える計画を立てることが法的な義務となります。

工事の目的と場所を知らせる事前の通知義務

3つ目の要件は、工事前の「通知」です。たとえ正当な権利であっても、ある日突然、無断で他人の土地を掘削することは許されません。

工事をしようとする土地の所有者は、あらかじめ相手方(私道の所有者や、その道路を使っている人)に対して、以下の事項を通知しなければなりません。

  1. 工事の目的(例:水道管引き込みのため)
  2. 工事を行う場所
  3. 工事の方法

通知のタイミングと相手方が不明な場合

通知は、相手方が準備をするのに足りる合理的な期間(一般的には2週間から1か月程度)を置いて、事前に行う必要があります。

また、今回の法改正の重要なポイントとして、私道の所有者が誰かわからない、あるいは所在不明で行方がつかない場合でも対応可能な点があげられます。簡易裁判所の「公示による意思表示」という手続きを利用することで、法的に通知を行ったとみなされ、要件を満たすことが可能になっています。

トラブルを防ぐための正しい通知手順と方法

私道所有者の承諾が得られない場合でも、改正民法に基づく正しい手順を踏めば工事は可能です。

ただし、法的効力を確実に発生させるためには、法律で定められた通知義務を厳格に履行することが求められます。

通知から着工までの全体的な流れを以下の表で確認します。

適切な通知を行うことで、後々のトラブルや裁判リスクを大幅に低減できます。

施工業者と連携したルート選定と調査

設備設置権を行使する大前提として、他人の土地に対して「損害が最も少ない場所と方法」を選択する義務があります。

自分の敷地に近いからといって安易にルートを決めず、水道工事店やガス会社などの専門家である施工業者と現地を入念に調査し、技術的かつ客観的な根拠に基づいてルートを選定します。

主観ではなく、第三者が見ても納得できるルート案を用意することが、正当性を主張する第一歩となります。

民法の規定を踏まえた通知書の作成

民法では、設備設置権を行使する際に「工事の目的」「場所」「方法」の3点を明確に記載した書面を作成し、相手方に伝えるよう定めています。

単なる「工事のお願い」ではなく、法的権利に基づく通知であることを示すため、内容証明郵便などを活用して証拠を残す形式で作成します。

法的な不備があると通知自体が無効となるため、必要事項に漏れがないよう慎重に作成します。

着工の2週間から1ヶ月前に行う通知の送付

相手方が内容を検討し、準備をするための期間を確保するため、工事着工の「2週間から1ヶ月前」までを目安に通知を送付します。

明日から工事を始めたいといきなり通知を送りつける行為は、権利の濫用とみなされるリスクがあり、法的な保護を受けられなくなる原因となります。

余裕を持ったスケジュールで通知を行うことは、相手への配慮を示すと同時に、自身の法的立場を守ることにつながります。

所有者不明の場合に行う裁判所の公示手続き

私道の所有者が登記簿上の住所に住んでおらず行方不明の場合、裁判所の「公示(こうじ)」手続きを利用して意思表示を行います。

相手が見つからないからといって無断で工事を開始することは違法ですが、簡易裁判所に申し立てを行い、掲示場に掲示されることで、相手に通知が到達したと法的にみなされます。

手続きには一定の期間が必要となるため、所有者が不明であることが判明した時点で速やかに準備に着手します。

権利行使に伴う費用負担と償金の仕組み

設備設置権は他人の土地を強制的に使用できる強力な権利ですが、無償で使えるわけではなく、相手の土地所有者が被る損害に対して償金(しょうきん)を支払う義務があります。

これまでの慣習で請求されていた根拠不明な「ハンコ代(承諾料)」とは異なり、民法で定められた「一時償金」と「継続的償金」という2つの性質を理解し、法的に適正な費用を負担することがトラブル解決の鍵となります。

不当な高額請求に屈するのではなく、法律に基づいた適正な対価を支払うことで、胸を張って工事を進めることができます。

私道の通行や掘削に対する対価としての償金

償金とは、他人の土地を使用することで相手に与える損害への補償金です。

民法第213条の2では、設備設置権を行使する者は、あらかじめその目的、場所および方法を通知した上で、損害が最も少ない場所を選定し、かつ償金を支払わなければならないと規定されています。

この償金は、単なる「通行料」や「迷惑料」といった曖昧な名目ではなく、実際に相手が被る不利益を金銭的に評価したものです。

例えば、私道を通行することで路面が摩耗する損害や、掘削工事によって一時的に道が使えなくなる損害などが対象となります。

相手が感情的に高額な金銭を要求してきたとしても、法的な償金の範囲を超える支払い義務はありません。

工事期間中の迷惑料にあたる一時償金

一時償金とは、ライフラインの引き込み工事を行うために、私道を一時的に占有・使用することへの対価です。

工事期間が3日間であれば、その3日間だけ土地の一部を使えなくすることに対する補償を行います。

具体的には、掘削作業中に私道の所有者が車を出せなくなる場合の代替駐車場代や、迂回を余儀なくされる負担などが計算の基礎となります。

この費用は、工事が完了して土地を元の状態に戻せば、それ以降は発生しません。

一時的な不便をおかけすることへの誠意として、実費に基づいた計算を示すことが重要です。

埋設管の設置による継続的償金

継続的償金とは、水道管やガス管などの設備が他人の土地に埋設され続けることで、土地の利用価値が下がる分に対する使用料です。

原則として1年ごとに支払いますが、当事者間の合意があれば将来分を含めて一括で支払うことも可能です。

重要なポイントは、設備が地下深く(大深度)に埋設され、地上の土地利用(通行や建物の建築など)を全く妨げない場合には、この償金が不要となるケースがあることです。

実際に、私道としての機能しか持たない土地の地下に配管を通すだけならば、所有者の損害はほぼゼロとみなされることが多くあります。

土地の価値を著しく損なう場合を除き、継続的な支払いは低額に抑えられる傾向にあります。

近隣相場を参考にした適正な金額の算出

償金の適正額は、言い値ではなく、近隣の地代相場や公的な評価額を基準に客観的に算出します。

具体的には、その土地の「固定資産税評価額」や「路線価」をベースに、使用する面積と期間、そして私道としての利用制約(更地価格からの減価率)を考慮して計算します。

一般的に、私道の承諾料として請求される「ハンコ代」が数十万円から数百万円になることがある一方で、法的に算出される償金は数万円程度、場合によっては数千円に収まることも珍しくありません。

算出根拠を明確に提示することで、法外な要求に対する強力な反論材料となります。

感情的な対立を避け、数字と根拠に基づいた冷静な交渉を行うことが、円満な解決への近道です。

相手に設置を拒否された場合の法的対処

民法改正により設備設置権が明文化されましたが、相手が感情的になり物理的に工事を妨害するケースもゼロではありません。

重要なのは、相手の挑発に乗らず冷静かつ法的な手順で対抗することです。

話し合いが決裂したとしても、法律は正当な権利を持つあなたの味方になります。

話し合いで解決できない場合の妨害排除請求

正当な理由なく工事を妨害された場合に行使できるのが、妨害排除請求権という権利です。

これは、あなたの持つ設備設置権や所有権に基づき、権利行使を妨げている違法な状態や障害物を除去するよう相手に求める法的効力を持ちます。

口頭での説得が通じない場合、弁護士名義で内容証明郵便を送付するだけで、相手の態度が軟化するケースも少なくありません。

相手も「裁判になれば負ける」と理解すれば、無用な争いを避けて承諾に応じるようになります。

法的な権利を明確に主張し、毅然とした態度で交渉に臨むことが解決への第一歩です。

絶対に避けるべき違法な実力行使

いくら法律で認められた権利であっても、相手の承諾や裁判所の許可なく無理やり工事を強行することは、自力救済の禁止という原則に反するため許されません。

「権利があるから」といって相手の敷地に勝手に入ったり、相手が設置したバリケードを壊したりする行為は絶対に避けてください。

これを行ってしまうと、住居侵入罪や器物損壊罪などの刑事責任を問われ、逆にあなたが加害者として訴えられてしまいます。

また、警察沙汰になれば工事はストップし、近隣住民との関係修復も不可能になります。

相手が不法な妨害をしてきたとしても、こちらは法を遵守し、同じ土俵には乗らない理性が求められます。

裁判所を通じた法的な解決ルート

話し合いや内容証明郵便でも解決しない場合、裁判所に対して妨害排除の仮処分命令を申し立てます。

通常の訴訟は判決まで1年以上かかることもありますが、仮処分であれば早ければ1ヶ月から3ヶ月程度で裁判所の判断が下されます。

建築工事はスケジュールの遅れが大きな損害につながるため、迅速な仮処分等の手続きが有効です。

裁判所が「工事を妨害してはならない」という命令を出せば、相手も従わざるを得なくなります。

弁護士や土地家屋調査士への相談

トラブルが深刻化する前に、法律のプロである弁護士や、土地の境界・測量のプロである土地家屋調査士へ相談します。

それぞれの専門分野を理解し、状況に応じて適切な専門家を頼ることが大切です。

相談料の相場は30分5,500円から11,000円程度ですが、初期対応を誤らないための必要経費といえます。

自分一人で抱え込まず、専門家の知見を借りることで、精神的な負担を減らしながら確実な解決を目指せます。

よくある質問(FAQ)

Q
私道の所有者に工事を拒否されても、本当に設置できますか?
A

可能です。

令和5年の民法改正により、ライフライン設備設置権という権利が明確に定められました。

他人の土地を使用しなければ電気や水道などの供給を受けられない場合、その土地の所有者の承諾がなくても、設備を設置する権利が法律上認められます。

ただし、勝手に工事をしてよいわけではなく、あらかじめ目的や場所、期間などを相手に知らせる手続きは必須です。

正当な権利行使であることを主張し、法的な手順を踏めば工事は実現できます。

Q
高額な承諾料(ハンコ代)を請求されていますが、支払う必要はありますか?
A

法外な金額を支払う必要はありません。

民法では、他人の土地を使用する対価として償金を支払う義務がありますが、これは近隣の地代相場や、工事によって相手が被る実際の損害(通行の不便さや路面の復旧費用など)を基準に算出されます。

一般的に請求される数十万円といった根拠のない「ハンコ代」とは性質が異なり、適正な金額はもっと低額になるケースが大半です。

相手の言いなりにならず、客観的な計算に基づいた適正額を提示することが大切です。

Q
相手が話し合いに応じず、実力で工事を止めに来たらどうすればいいですか?
A

絶対に無理やり工事を強行してはいけません。

相手が物理的に妨害してきた場合に、こちらが実力で対抗すると、逆に不法行為として責任を問われる恐れがあります。

このような場合は、裁判所に妨害排除請求や仮処分の申し立てを行い、司法の判断を仰ぐのが確実な方法です。

裁判所から命令が出れば、相手も従わざるを得なくなります。

感情的なトラブルを避け、弁護士などの専門家と連携して法的に解決を図るべきです。

Q
事前の通知には具体的にどのような内容を書けばよいですか?
A

民法第213条の2に基づき、「工事の目的」「場所」「方法」の3点を必ず記載します。

例えば、「生活用水の引き込みのため(目的)」、「私道の入口から○メートル地点の地下(場所)」、「掘削および配管の埋設(方法)」といった具体的な内容です。

これらを記載した通知書を作成し、工事着工の2週間から1ヶ月前までに到達するように内容証明郵便などで送付します。

形式に不備があると権利を行使できなくなるため、施工業者と相談して正確な図面を添付することをお勧めします。

Q
水道やガスだけでなく、インターネットの光回線工事も対象になりますか?
A

はい、対象になります。

改正民法における継続的給付を受けるための設備には、電気、ガス、水道だけでなく、電話やインターネットなどの電気通信設備も含まれます。

現代生活において通信インフラは不可欠なライフラインであるため、私道を通さなければ回線を引き込めない場合は、設備設置権を行使して光ファイバーケーブルなどの引き込み工事を行うことが可能です。

テレワークなどで回線が必要な場合も、この権利を主張できます。

Q
設備設置権と設備使用権は、具体的に何が違うのですか?
A

新しく設置するか、すでにあるものを使うかという点が異なります。

設備設置権は、他人の土地に新しく水道管やガス管を埋設したり、電線を引いたりする権利です。

一方で設備使用権は、他人がすでに設置している配管や工作物に接続して利用させてもらう権利を指します。

民法では、他人の土地に穴を掘るよりも既存の設備を使わせてもらうほうが相手への損害が少ない場合、設備使用権を行使すべきだと考えます。

現場の状況に応じて、より影響が少ない方法を選択することになります。

まとめ

この記事では、令和5年の民法改正で明確化された設備設置権の仕組みと、私道所有者の承諾を得られなくてもインフラ工事を進めるための具体的な手順を解説しました。

もっとも重要な点は、法律が定める要件を満たしさえすれば、相手がどれほど拒否したとしても所有者の承諾なしでライフラインを設置する権利があることです。

感情的な対立を恐れて泣き寝入りするのではなく、記事で紹介した通知書を速やかに準備し、法律に基づいた適正な手続きで自宅の建て替え計画を前に進めてください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました