道路に接していない袋地(無道路地)を所有していて、「再建築不可=売れない」と諦めていませんか?
結論からいえば、袋地の売却は可能です。しかも、2023年の民法改正と2025年の建築基準法改正により、従来よりも売却しやすい環境が整いつつあります。
ただし、一般的な不動産と同じ方法では売れません。必要なのは、①法改正で新たに認められた権利を正しく使うこと、②隣地所有者との交渉を「年単位」で粘り強く進めること、③専門業者の買取という選択肢を理解すること、この3つです。
本記事では、筆者が10年以上にわたり私道や袋地の問題を専門に扱ってきた経験をもとに、袋地を有利に売却するための具体的な方法を解説します。全国の住宅総数のうち約280万戸が接道不良の物件といわれる現在、あなたの袋地にも必ず出口戦略があります。
2025年建築基準法改正で「大規模修繕」が可能に

2025年の建築基準法改正により、袋地に立つ建物の価値が一部改善される可能性が出てきました。
改正のポイント:建築確認で建物を守れる時代へ
これまで袋地(再建築不可物件)では、大規模な修繕やリフォームを行う際、建築確認が必要な規模の工事はできませんでした。建築確認を申請しても、接道義務(建築基準法上の道路に2メートル以上接していること)を満たさないため、確認が下りなかったためです。
ところが2025年の改正により、一定の条件下で既存不適格建物(袋地に立つ建物)についても建築確認を経た大規模修繕が可能になりました。つまり、新築はできなくても「新築同様」にまで建物を再生し、資産価値を維持できるようになったのです。
実務的には「専門業者向け」の制度
ただし、筆者の見解としては、この改正が袋地所有者全員にとって劇的な変化をもたらすとは考えていません。
なぜなら、大規模修繕をして利益を出すには専門的な知識と資金力が必要だからです。実際には、宅地建物取引業者(宅建業者)が袋地を買い取り、大規模リフォームを施して「新築同様」の状態にして再販売するという流れが主流になるでしょう。
一般の所有者が自力でリフォーム計画を立て、建築確認を取得し、売却まで持ち込むのは現実的ではありません。むしろ、この改正によって「袋地でも建物を生かせる」という市場価値が若干上がり、専門業者による買取価格が改善される可能性があると捉えるべきです。
筆者の先輩業者に、袋地を好んで購入する人がいます。この業者さんは袋地を安く購入し、年単位でチャンスをうかがい、代替わりのタイミングや大きな経済的変動のタイミングで隣地所有者と交渉し、袋地を接道させて売却しています。袋地は、ビジネス上の戦略にも利用できるということなのです。
なぜ袋地は売りにくいのか? 買い手が避けたい3つの壁

袋地が一般市場で売れにくい理由は、買い手が「法・金・隣」という3つの壁を恐れるからです。
①法律の壁:再建築不可のリスク
建築基準法では、都市計画区域内の建築物の敷地は、原則として幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければなりません(接道義務)。
袋地はこの条件を満たさないため「再建築不可」となります。つまり、既存の建物が老朽化して建て替えたくても、新しい建物を建てることができません。火災や地震で建物が倒壊した場合、その土地は更地のまま放置するしかなくなるわけです。
総務省の令和5年住宅・土地統計調査によれば、全国で約74,600戸の住宅が「敷地が道路に接していない」状態にあり、さらに幅員2メートル未満の道路に接している住宅は約210万戸にのぼります。合計すると、再建築不可の可能性がある住宅は全国で約280万戸、住宅総数の約4.8%を占めています。
②金融の壁:住宅ローンが組めない
買い手にとって最も深刻なのは、金融機関が袋地を担保として評価しないことです。
再建築不可の土地は将来的な資産価値が不透明なため、ほとんどの銀行が住宅ローンの融資を拒否します。現金一括で購入できる買い手に限定されるため、市場は極端に狭くなります。
さらに、インフラ(水道・ガス・電気)の引き込みや更新工事を行う際、隣地を通す必要があるため、その都度、隣地所有者の承諾と費用負担が発生します。こうした「見えないコスト」も買い手を遠ざける要因です。
③隣人関係の壁:通行や工事の承諾問題
袋地の所有者は、公道に出るために周囲の土地(囲繞地)を通行する権利を持っています(民法第210条「囲繞地通行権」)。しかし、この権利は法律上認められているとはいえ、隣地所有者との人間関係が悪ければ、日常生活そのものが苦痛になります。
筆者が扱った事例では、囲繞地通行権を主張したところ、隣地所有者が通路に物を置いて嫌がらせをするケースもありました。法的には通行できても、現実には「円満な関係」がなければ生活できないのが袋地の実態です。
専門買取業者であるAlbaLink(アルバリンク)の調査では、袋地や再建築不可物件の相談件数は延べ4万件を超えています(2025年4月時点)。買取価格は一般的な市場相場の70〜80%程度ですが、契約から現金化までの期間は平均1か月半と非常に短いのが特徴です。
令和5年施行の改正民法:インフラ引き込みの権利

2023年(令和5年)4月に施行された改正民法は、袋地所有者にとって大きな追い風となりました。
ライフライン設置権の明文化(民法第213条の2・3)
改正前の民法では、電気・ガス・水道などのライフラインを隣地に通す権利が曖昧でした。隣地所有者が拒否すれば、事実上インフラを引き込めないケースも多かったのです。
改正民法では、他人の土地を使用してライフラインを設置する権利が明文化されました。具体的には以下の通りです。
- 設置場所は、隣地への損害が最も少ない場所を選ぶこと
- 償金(使用料)を支払う義務があること
- 隣地所有者が不明な場合でも、通知などの手続きを経て利用可能であること
つまり、隣地所有者が「嫌だ」と感情的に拒否しても、法的には正当な手続きを踏めばライフラインを通せるようになったのです。
隣地利用権の拡充(民法第209条)
建物の修繕、境界標の設置、測量などのために必要な範囲で、隣地の使用を請求できる権利も拡充されました。
従来は「隣地所有者の承諾」が事実上必須でしたが、改正後は所有者不明の場合でも適切な通知を行えば利用できます。これは、所有者不明土地問題の深刻化に対応したものです。
実務での活用法:買い手の不安を払拭する証拠に
筆者がこの改正を実務で活用する際、最も効果的なのは「買い手の不安を払拭する材料」として提示することです。
たとえば、「将来的に給排水管の更新工事が必要になった場合でも、改正民法によって法的に工事が可能です」という説明を、具体的な条文(民法第213条の2)とセットで示すことで、買い手の心理的ハードルを下げることができます。
ただし注意すべきは、この権利を行使するには「償金」の支払いが必要であり、隣地所有者との関係が険悪な場合、金額交渉が難航する可能性があることです。法律は「権利」を保証しますが、「円滑な実行」までは保証しません。
袋地を「優良物件」に変えて高く売る3つの戦略

袋地を最も高く売却する方法は、「再建築可能な土地」に変えてから売ることです。以下、3つの実務的アプローチを紹介します。
戦略①:建築基準法第43条第2項第2号許可を取得する
接道義務を満たさなくても、特定行政庁(市区町村)から例外的に建築許可を得られる制度があります。これを「43条許可」(旧43条但し書き許可)といいます。
許可の主な要件は以下の通りです。
- 用途・規模:原則として2階建て程度の専用住宅であること
- 通路の幅員:1.5〜2.0メートル以上の通路が確保され、将来的に拡幅が可能であること
- 防災対策:耐火構造または準耐火構造とすること、消火器や水栓の設置が求められる場合がある
- 権利の担保:将来にわたる通行の確保について、通路所有者の同意や誓約書の提出が必要
埼玉県越谷建築安全センター、横浜市、京都市などの自治体ごとに運用基準が異なるため、事前に窓口で相談することが不可欠です。
筆者の経験上、「43条許可」が取れるかどうかは同じ道(非道路の通路)に接する土地に建物が建てられているかどうかで、ある程度推測できます。市役所や県庁の担当部署(建築指導課など)で、指定道路マップを見せてもらってください。非道路で建築できている(つまり43条許可をとっている)建物が並びにあるかどうかを確認し、その事情を役所の職員に尋ねると、可能性の有無が見えてきます。
戦略②:隣地の一部買取りまたは等価交換で接道確保
最も確実かつ高値で売却できる方法は、隣地の一部を買い取って接道義務を満たすことです。
具体的には、以下の2パターンがあります。
- 部分買取り:隣地の所有者から、接道に必要な最小限の土地(幅2メートル×奥行き数メートル)を購入する
- 等価交換:隣地の所有者と土地の一部を交換し、双方が道路に接するように形状を整える
成功のポイントは、役所調査に基づき「あと何メートルの接道があれば資産価値がどれだけ上がるか」という具体的な数字を示すことです。隣地所有者にとってもメリット(たとえば、自分の土地も整形地になる)を提示できれば、交渉は前進します。
筆者の経験上、隣地所有者が「今すぐ売りたい」と考えているケースは稀です。相続や転居のタイミングを待つ必要があるため、交渉期間は年単位になることを覚悟してください。また、筆者は糸満市字糸満で2.5㎡ほどの狭い土地を買い取るお手伝いをしたことがありますが、交渉には長い時間がかかり、また測量費用などかなりの予算がかかった経験があります。時間がかかる点だけでなく、測量・分筆費用を最初から見積もっておく必要もあります。
戦略③:通行・掘削承諾書の取得で買い手の不安を軽減
すでに建物がある(再建築不可物件)場合、隣地の買取りや43条許可が難しい場合でも、隣地所有者から「通行承諾書」および「掘削承諾書」を取得できれば、買い手の心理的ハードルは大きく下がります。
これらの承諾書は、将来的に給排水管の引き込みや更新工事を行う際、隣地を利用できることを書面で保証するものです。改正民法によって法的権利は強化されましたが、実務では「事前の書面合意」があるかどうかで、買い手の安心感は大きく変わります。
承諾書には、以下の内容を明記します。
- 通行の範囲(幅何メートル、どのルートか)
- 掘削工事の可否(給排水管の敷設や更新)
- 償金(使用料)の金額または算定方法
- 承諾の有効期間(永続的か、一定期間か)
筆者が作成する承諾書には、必ず「相続人にも効力が及ぶ」旨の条項を入れています。隣地所有者が亡くなった際、相続人が承諾を覆すリスクを防ぐためです。
隣地交渉は「1か月」で終わらない。年単位の粘り強さが鍵

袋地の売却において、最も重要かつ困難なのが隣地所有者との交渉です。
なぜ交渉に時間がかかるのか?
筆者が10年以上にわたり私道ラボで扱ってきた経験から断言できるのは、隣地交渉は「1か月」では終わらないということです。多くの場合、年単位の時間を要します。
理由は明確です。袋地を流動化させるには、①隣地の人に袋地を買ってもらう、②隣地の一部を譲ってもらって通路を作る、この2つの方法しかありません。
しかし、自分が隣地所有者の立場になって考えてみてください。突然「あなたの土地を買いたい」「一部を売ってほしい」と言われて、「はい、いいですよ」とすぐに応じるでしょうか? 答えは「ノー」でしょう。
隣地所有者も、その土地を必要としているから所有しているわけです。一部であれ土地を譲るというのは、自分の資産を減らすことに他なりません。よほどのメリットがない限り、簡単には応じません。
交渉が成功するタイミングとは?
では、いつなら交渉が成立する可能性があるのか? 筆者の経験では、以下のタイミングです。
- 所有者が変わる時:相続が発生して持ち主が変わった、不動産会社が買い取った、など
- 資金に余裕ができた時:隣地所有者に相続財産が入った、退職金が入った、など
こうしたタイミングは、自分の都合ではコントロールできません。だからこそ、長いスパンの中で見ておいて、そのタイミングが来た時に確実に交渉を進めるという姿勢が必要なのです。
「急がば回れ」の実務的極意
筆者がクライアントに必ず伝えるのは、「焦って交渉すると、決裂する」ということです。
隣地所有者も人間です。感情があります。こちらが「早く売りたいので協力してください」と焦りを見せれば、相手は「足元を見られている」と感じ、条件を釣り上げたり、あるいは拒否したりします。
逆に、「いずれ何らかの形で協力できればと思っています。無理にとは申しません」という姿勢で、1か月ごとに丁寧に信頼を積み上げることが重要です。
筆者が実際に行っているのは、以下のような「時間の投資」です。
- 月に1回、季節の挨拶を兼ねて顔を出す
- 相手の困りごと(たとえば、私道の清掃や境界標の確認)があれば、積極的に協力する
- 相手の家族構成や生活状況を把握し、相続や転居の兆候を察知する
こうした地道な関係構築が、最終的に「あなたになら協力してもいい」という言葉を引き出すのです。
まとめ:袋地売却は「正しい知識」と「粘り強い交渉」の掛け算

袋地の売却は、決して不可能ではありません。
2023年の民法改正によってライフライン設置権が明文化され、2025年の建築基準法改正によって大規模修繕の道が開かれました。法律は確実に、袋地所有者の味方になりつつあります。
しかし、法律だけで売却が成立するわけではありません。最も重要なのは、隣地所有者との粘り強い交渉です。1か月や2か月で結果を求めるのではなく、年単位で信頼関係を築き、相手にとってもメリットのある提案をする。この姿勢がなければ、袋地は動きません。
もし、「そこまで待てない」「早く現金化したい」という場合は、専門買取業者への売却を検討してください。市場相場の70〜80%程度にはなりますが、平均1か月半で確実に現金化できます。契約不適合責任も免責されるため、心理的負担も軽減されます。
袋地売却は、「正しい知識」と「粘り強い交渉」の掛け算です。本記事で紹介した法改正の内容、3つの戦略、そして交渉の極意を武器に、あなたの袋地に最適な出口戦略を見つけてください。


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