私道に面した土地は、公道の土地よりも安くなる傾向があります。
大阪府堺市と横浜市鶴見区の実際の売買データを調べたところ、私道物件は非私道物件より、おおむね1割ほど安いという結果が出ました。たとえば非私道で4,500万円程度の物件なら、同等条件の私道物件では4,100万円前後になるイメージです。
ただし、安い裏には理由があります。たとえば、建築基準法上の道路要件を満たしていない私道は、建て替えができないことがあります。道路の幅員が足りない場合は、セットバックによって敷地が削られることもあります。さらに、私道の持分がない物件では、通行や掘削の承諾が得られず、住宅ローンの審査で不利になるケースも珍しくありません。
この記事では、筆者が宅地建物取引士として実際の物件調査で確認してきた内容をもとに、私道が安くなる法的な理由と、購入前に見極めるべきリスクを整理しました。読み終える頃には、「私道だから安い」という漠然とした理解ではなく、その物件が本当に「割安」なのか「見送るべき」なのか、ご自身で判断する材料が揃っているはずです。
制作・監修者について
アップライト合同会社の編集部が制作(監修は宅地建物取引士・立石秀彦)。不動産の調査・マーケティングを専門とし、複数の不動産メディアを運営しています。
私道に面した土地が安いのは本当か「実例」で計算

私道で接道している土地が相場価格よりどれくらいやすいのか、という公的データは意外と少なく、公表されているものを見つけるのは困難です。
そこで、今売り出されている物件と、成約事例の両面から公開データを分析してみました。
その結果、堺市と横浜市鶴見区で「私道物件は非私道物件より、おおむね1割ほど安い」という傾向が確認されました。
| 調査対象 | 比較方法 | 私道物件の価格差 |
| 堺市 | 持分割合が明記された5件を同一エリアの物件と比較 | 坪・㎡単価の中央値で約6.9%安い |
| 横浜市鶴見区 | 私道106件と非私道273件を比較 | 単純価格で約8.9%安い |
| 横浜市鶴見区 | 条件の近い102組を個別比較 | 約4.5%安い |
| 横浜市鶴見区 | 面積・築年数・地域などを統計的に調整 | 約9.2%安い |
以上から、私道による価格への影響は「約1割安い」が一つの目安と考えられます。例えば、非私道なら4,500万円程度の物件が、同等条件の私道物件では4,100万円前後になるイメージです。
ただし、私道物件が一律に安くなるわけではありません。道路幅員、再建築の可否、持分の有無、通行・掘削承諾、住宅の状態などによって価格差は大きく変わります。実際に、地区別で比較すると、私道物件の方が高い地域もありました。これは、私道物件の方がその他の条件が良かったからだと考えられます。
したがって、私道物件の価格を考える際、同じ地域・面積・築年数の非私道物件と比較した場合、おおむね1割程度安ければ妥当ではないかという相場感になります。
調査データと計算方法
なお、今回の分析には次の2種類のデータを使用しました。
| 対象地域 | データ出典 | 抽出・計算方法 |
| 大阪府堺市 | 不動産ジャパンに掲載された中古一戸建て296件(2026年9月9日取得) | 私道面積と持分割合が明記された5件を抽出。同一町名、最寄り駅、築年数、土地・建物面積が近い公道接道物件5件と比較しました。さらに、公道接道候補168件を用いて条件補正を行いました。 |
| 横浜市鶴見区 | 国土交通省「不動産情報ライブラリ」の不動産取引価格情報・成約価格情報657件(2025年第1四半期~2026年第1四半期) | 完全に重複する8件を除外。戸建住宅として比較可能な379件(私道106件、非私道273件)を抽出しました。このうち私道102件について、同じ町名にある条件の近い非私道物件と個別に比較しました。 |
価格差は、売買価格の中央値、延床面積1㎡当たりの価格、類似物件との個別比較によって計算しました。
横浜市鶴見区については、地域、土地面積、延床面積、築年数、駅からの徒歩時間、取引時期などの違いを統計的に調整しています。
なお、堺市は売出価格、横浜市鶴見区は取引価格・成約価格に基づく分析です。データの性質が異なるため、両地域の数値を単純に合算せず、価格差の傾向を確認する資料として使用しています。
私道物件が安くなる理由(セットバック・建築基準法上の道路要件)

私道に面した土地が安くなる背景には、感覚ではなく明確な法律上の理由があります。ポイントは「建築基準法上の道路」として認められるかどうかです。
「道路」として認められるかがすべての出発点
建築基準法43条は、建物を建てる土地について「道路に2m以上接していること」を義務づけています。ここでいう「道路」は、見た目が道であれば何でもいいわけではありません。同法42条で定められた、幅員4m以上(区域によっては6m以上)の道路に限られます。
つまり私道であっても、42条の要件を満たしていなければ「未接道」扱いとなり、建て替えができなくなります。これが、私道物件が公道物件より安くなる最大の理由です。
セットバックで「使える面積」が減る
私道の中でも多いのが、42条2項道路(通称・みなし道路)です。建築基準法ができた当時からあった、幅員4m未満の道路を指します。この道路に面した土地は、建て替えのたびに道路の中心線から2mの位置まで敷地を後退させる必要があります。これがセットバックです。
たとえば100㎡の土地で、道路幅員が2.6mしかない場合を考えてみます(間口10mの一例)。中心線から2m後退させるため、約7㎡を道路として提供することになり、有効敷地面積は93㎡まで目減りします。後退した部分は登記簿上の所有地ではあるものの、建ぺい率・容積率の計算からは除外されるため、建物の規模には反映されません。塀や門扉を置くこともできません。
建ぺい率60%・容積率160%の条件で試算すると、最大建築面積は60㎡から55.8㎡へ、最大延床面積は160㎡から148.8㎡へと縮小します。土地の代金は100㎡分を支払っているのに、実際に家として使える面積は93㎡分でしか計算されない……。この差が、価格に反映されるわけです。
セットバックについては以下の記事も参照してください。

建築基準法上の道路にも種類があり、再建築できない私道もある
私道と一口に言っても、法律上の扱いはいくつかに分かれます。
- 42条1項5号(位置指定道路):特定行政庁から位置の指定を受けた道路で、幅員4m以上なら再建築は可能です。ただし現況が指定時の図面と異なっていたり、幅員が狭くなっていたりする場合は注意が必要です。
- 42条1項3号(既存道路):建築基準法ができた時点で既に4m以上あった私道です。現況幅員が維持されていれば、接道要件を満たします。
- 42条2項道路(みなし道路):先述のセットバックが必要な道路です。
- 42条に該当しない道(法外道路):里道や水路敷、個人が管理する未指定の通路などです。原則として再建築ができず、資産価値への影響が最も大きくなります。
法外道路に接する土地でも、43条2項の「認定」または「許可」を受ければ例外的に建築が認められる場合があります。ただし審査には数か月単位の時間がかかることが多く、確実に許可が下りる保証もありません。この不確実性を嫌って住宅ローンの審査が通りにくくなることも、価格が下がる一因になっています。
私道物件を安く感じたときは、まず「その道路が建築基準法42条のどれに該当するか」を確認することが、判断の出発点になります。
詳しくは、以下の記事などを参照してください。

価格差の裏にある3つのリスク(通行掘削承諾・私道持分・住宅ローン審査)

私道物件が安くなる理由は、法律上の道路要件だけではありません。実務で問題になりやすいのが、通行・掘削の承諾、私道持分の有無、住宅ローン審査という3つのリスクです。しかもこの3つは別々の問題ではなく、一本の線でつながっています。
通行・掘削の承諾が得られないリスク
私道に接する土地に給排水管やガス管を新たに引き込む、あるいは補修する場合、私道部分の掘削が必要になります。2023年4月に施行された改正民法では、他人の土地を経由しないと電気・ガス・水道の供給を受けられない土地の所有者に、設備の設置権・使用権が法律で認められました(民法213条の2)。この権利がある以上、私道所有者から高額な承諾料を求められても、支払う法的義務はありません。
ただし、ここには実務上の落とし穴があります。私道所有者が実際に工事を妨害してきた場合、施主や業者が実力で押し切ることは自力救済禁止の原則により認められていません。裁判所に妨害排除の申し立てをすることになり、解決までに数か月単位の時間と費用がかかります。水道局やガス会社の指定工事業者も、近隣トラブルを避けるため、今も承諾書の提出を求めるのが一般的です。法律は変わっても、現場の運用はそう簡単には変わらない……というのが実情です。
なお、改正民法で定められた設備設置権については以下の記事を参照してください。

私道持分の有無によるリスク
私道の権利関係は、大きく分けて「持分あり(共有)」「分筆持合い」「持分なし(第三者所有)」の3パターンがあります。
持分を持っていれば、自分の権利として通行や掘削を主張できます。一方、持分がまったくない場合、通行も掘削も相手の好意や許諾に頼るしかありません。所有者が変わった途端、話が振り出しに戻ることもあります。
分筆持合い(各戸が自分の前面部分だけを所有し合う形)も要注意です。自分の前の部分は自由に使えても、公道に出るまでの間に他人の所有地を通る必要がある場合、その分すべてで個別の承諾が必要になります。関係者が増えるほど、話がまとまりにくくなるのは、道路に限った話ではありません。
私道の持分については、以下の記事も参照してみてください。

住宅ローン審査が通りにくくなるリスク
そして、この2つのリスクが最終的に行き着く先が、住宅ローン審査です。
金融機関は、万が一の際に担保物件を市場で売却できるかどうかを厳しく見ています。私道持分がなく、承諾書も揃っていない物件は、将来の売却や建て替えに支障が出る可能性があるため、担保評価が大きく下がるか、融資そのものを断られることも少なくありません。フラット35をはじめとする主要な住宅ローンでも、私道持分のない物件については、所有者全員の実印と印鑑証明書付きの承諾書提出を求められるのが一般的です。しかも、その承諾は現所有者一代限りでは足りず、将来の買主や相続人にも効力が及ぶ内容でなければ、審査を通過しません。
この結果、住宅ローンを使える一般の買主が市場から締め出され、現金で購入できる投資家や買取業者だけが買い手として残ります。買い手が限られれば、価格は下がらざるを得ません。国税庁の財産評価基本通達でも、不特定多数が通行する私道は評価額0円、特定の人だけが使う行き止まりの私道は宅地価格の30%程度で評価するとされており、私道という権利の性質自体が、価格に大きく影響することがうかがえます。
つまり、私道物件の価格差は「私道だから何となく安い」のではなく、承諾の取りにくさが融資の通りにくさに直結し、それが買い手の数を絞り込むという、一連の流れの結果だと考えると分かりやすいと思います。
このテーマについて、より詳しい解説は以下の記事に掲載しています。

現地・登記で確認すべきポイント(筆者の調査経験をもとに解説)

私道物件の調査は、図面だけでは終わりません。登記簿を読み、現地を歩いて初めて分かることが、実はたくさんあります。ここでは、筆者が実際の調査で確認している具体的なポイントを紹介します。
登記で確認すべきこと
まず私道を構成するすべての筆について、登記事項証明書を取得します。私道が複数の筆に分かれている場合、一部の筆だけ持分が抜けている……というケースが意外とあるからです。
持分の登記漏れを見つける手がかりとして、筆者がよく使うのが共同担保目録です。過去に融資を受けた際、金融機関は宅地本体だけでなく私道持分にも抵当権を設定していることが多く、そこから関連する筆を芋づる式に追跡できます。
また、市区町村で取れる名寄帳の確認も欠かせません。私道は「公衆用道路」として非課税になっていることが多く、通常の納税通知書には載らないためです。名寄帳で非課税地番まで洗い出して、初めて私道の全体像が見えてきます。
現地で確認すべきこと
登記や図面だけでは分からないのが、現地の実態です。筆者が調査で必ず見るのは、次の3点です。
- 境界標の有無:杭や金属鋲が現存しているか、セットバック済みなら後退線を示す杭が正しい位置にあるか
- 道路幅員の実測:起点・中間・対象地前面の複数箇所で測る。図面上は4mでも、塀や擁壁の越境で実際は足りていないことがあります
- 路面・排水の状態:ひび割れや陥没、側溝の破損具合は、そのまま将来の補修費用の目安になります
特に幅員は、机上の数字を鵜呑みにしないことが大切です。ブロック塀が数センチ道路側に出ているだけで、指定幅員を割り込んでいる私道は、筆者の経験上も珍しくありません。
加えて、私道上に駐車車両やプランター、チェーンゲートなどがないかも見ておきたいところです。通行を妨げる物が常態化している私道は、購入後に近隣とのトラブルに発展しやすい……というのが、現場を見てきた実感です。
こうした登記と現地、両方の照合作業を経て初めて、その私道が「安心して住める私道」か「注意が必要な私道」かの判断がつきます。
私道の調査について、より詳しくは以下の記事を参照してください。

それでも私道の土地を選ぶ価値があるケース

ここまで私道のリスクを中心に見てきました。ただし、私道には価格の安さ以外にもメリットがあります。公平に見ておきたいところです。
通り抜けがないことによる静けさと安全性
私道、特に行き止まり構造の私道は、目的のない車が通り抜けることがありません。
公道沿いの土地では、抜け道として使われる車の走行音や、スピードを出した車両のヒヤリとする場面が避けられないことがあります。一方、行き止まりの私道であれば、そこに用のある車しか入ってきません。走行速度も自然と落ちます。
小さな子どもがいる家庭にとって、道路に飛び出す事故のリスクが下がることは、価格差以上の価値を感じる人も少なくないでしょう。
「顔の見える」防犯性
私道は、沿道の住民だけが日常的に使う空間になりやすいところがあります。
見慣れない人が入ってくれば、住民同士の視線で自然と気づきやすくなります。道路が単なる通り道ではなく、住民の共有スペースのように機能するわけです。これは、不特定多数が自由に通行できる公道にはない性質です。
もちろん、これは私道であれば自動的に得られる効果ではありません。実際に住民同士の付き合いがあり、道路の使い方について暗黙の了解が積み重なっている……という前提があってこそです。
道路そのものへの自由度
公道の舗装や植栽は、自治体の基準に従わざるを得ません。私道であれば、住民の合意があれば、舗装材や植栽など、道路の使い方にある程度の裁量が効きます。
もちろん、これは前述の通り、住民間の合意形成や費用負担という手間と裏表の関係にあります。自由度が高い分、話し合いと費用負担の当事者になる、という点は忘れないようにしたいところです。
まとめると
私道のメリットは、「静けさ」「防犯性」「道路の使い方の自由度」に集約されます。ただし、これらはいずれも、権利関係が整理され、住民間の合意形成がうまくいっている私道に限った話です。
権利や承諾の問題を抱えたままの私道では、こうしたメリットを享受する以前に、通行や建て替えそのものでつまずくことになります。私道のメリットを取るか、公道の安定性を取るかは、その私道が「整った私道」かどうかの見極めにかかっている……というのが、筆者の実感です。
なお、私道物件の価値やメリット・デメリットについては、以下の記事でも詳しく触れています。

契約前に確認しておきたいチェックリストと相談窓口

私道物件の調査は、多岐にわたります。抜け漏れを防ぐため、最低限ここだけは押さえておきたいというポイントを整理しました。
道路の種類を確認する
- 前面道路が建築基準法42条のどれに該当するか(1項5号・1項3号・2項・43条2項)
- 現況幅員が図面や指定時と一致しているか
- セットバックが必要な場合、後退面積と完了状況
役所の建築指導課で、道路台帳を確認すれば分かります。
私道の権利関係を確認する
- 私道持分の有無、持分割合
- 共有型か、分筆持合い型か、単独所有型か
- 登記簿・公図・地積測量図で、記載内容と現況が一致しているか
通行・掘削の承諾書を確認する
持分がない場合は、特にここが重要です。
- 私道所在地が明確に書かれているか
- 無償で通行・掘削できる旨が明記されているか(車両・工事車両を含む)
- 将来の建て替えや配管入れ替えにも有効か
- 所有者が変わっても承諾内容が引き継がれるか(第三者承継条項)
- 私道所有者全員の署名・捺印と、印鑑証明書の添付があるか
一代限りの承諾書は、次の所有者に効力が及びません。この点は必ず確認してください。
インフラの状況を確認する
- 私道内の給排水管が公設管か私設管か(水道局・下水道局で台帳確認)
- 私設管であれば、共有関係と維持費の負担割合
- 本管からの引き込みに、他人の私道を経由していないか
維持管理・費用負担を確認する
- 私道の補修や清掃について、住民間の取り決めがあるか
- 固定資産税の非課税申告がされているか(不特定多数の通行があれば対象)
- 過去に補修費用を分担した記録があるか
住宅ローンへの影響を確認する
- 私道持分なしの場合、金融機関が承諾書の提出を融資条件にしていないか
- 事前審査だけでなく、本審査でも承諾書の内容が問題ないか
- 融資特約に、承諾書不備の場合の白紙解除条項を入れているか
相談窓口
- 道路の種類・指定状況:市区町村の建築指導課(公道は道路管理課)
- 権利関係・登記:法務局
- ライフライン埋設状況:水道局・下水道局・ガス事業者
- 契約条項・特約の設計:宅地建物取引士、司法書士
- 融資の可否:取扱金融機関の窓口
私道物件は、調べる項目こそ多いものの、一つずつ潰していけば判断材料は揃います。逆に言えば、これらを確認しないまま契約してしまうことが、一番のリスクだと筆者は感じています。

まとめ「『安い』だけで判断しないための私道 の知識」

私道に面した土地が安いのは、単なる印象ではなく、はっきりとした理由があります。建築基準法上の道路要件やセットバックによって使える面積が削られること、そして通行・掘削の承諾や住宅ローン審査の難しさが、買い手を限定し価格を押し下げているのです。
堺市・横浜市鶴見区のデータで見た「約1割安い」という相場感も、こうした法的・実務的な背景があって初めて成り立つ数字です。だからこそ、価格の安さだけで飛びつくのではなく、道路の種類、私道持分の有無、通行・掘削承諾書の内容という3点を、契約前に必ず確認する必要があります。
ここまで読んでいただければ、「私道だから何となく不安」という漠然とした状態から、「この物件は何を確認すればよいか」が具体的に分かる状態に変わったはずです。あとは、記事内のチェックリストに沿って、一つずつ事実を確認していくだけです。判断に迷う点が出てきたら、宅建士や司法書士といった専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
私道物件は、確認すべき点こそ多いものの、一つずつ潰していけば判断材料はきちんと揃います。焦って契約を急ぐより、まずは道路の種類と持分の有無から確認していきましょう。


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